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山口家庭裁判所 昭和51年(少)989号 決定

少年 N・E子(昭三二・二・一六生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(本件虞犯事実)

少年は、昭和五一年四月一二日当庁において窃盗保護事件により山口保護観察所の保護観察に付され、現に保護観察中の者であるが、上記保護観察中新たに少年法三条一項三号に掲げる事由があるとして、同年一一月二四日犯罪者予防更生法四二条一項の規定により同観察所長から当庁に通告されたものであり、その通告事由は概略つぎのとおりである。すなわち、少年は、上述保護観察処分後の昭和五一年六月一〇日他人の家から現金八万四、五九〇円を窃取するという非行を犯し、この事件につき当庁で不処分となつた直後の同年八月二〇日、山口県小野田市社会福祉事務所の斡旋で、福岡県○○郡○○町所在の精神簿弱者授産施設○○学園へ入所したが、同年一〇月一二日最終的に同学園を逃走し、通行中の長距離トラックに便乗して自宅に帰るまでに合計五回にわたり同所を逃走しその都度警察に保護され、その後、以前入所していたことのある山口県婦人相談所へ収容されても、また小野田市の自宅へ帰つても、いずれも同相談所の係員や祖母の正当な指導、監督に服せず夜間同相談所や自宅を抜け出し、無断外泊家出(広島まで行つたこともある。)をくりかえしているもので、さらに同月三一日から同年一一月五日頃までの間は、窃盗で保護観察付執行猶予三年の前歴のある工員兼バーテンの○神○雪二七歳と同人のアパートで同棲したりなど犯罪性のある人と交際もしていたものであつて、以上の事情は少年法三条一項三号のイ、ロおよびハに該当し、その性格、環境に照して、将来刑罰法令に触れる行為をする虞のあるものである。

そこで、関係記録および少年の当審判廷における供述を検討すると、上記通告にかかる事由記載の事実すべてを認めることができるものである。

(処遇)

1  少年に対する鑑別結果によれば、少年のIQは四七という痴愚級であり、その精神年齢は五歳から六歳程度の精神簿弱と判定されており、また少年の情意面の偏倚も目立ち、人格の発達はかなり停滞しており、本少年の場合まずこれらの資質面での負因そのものが社会生活上の適応障害となつていると考えられる。そのうえ、少年の生育環境も、少年の母は少年が二歳になる前に死亡し、少年の父はその直後家を出、以来現在まで行方不明、少年は、兄および弟と共に、実父母の養親である祖父母に育てられたもので、その兄および弟もともに精神簿弱者であり本少年より手がかかり常に老齢の祖父母の手をわずらわせており、少年は、これらの家庭環境の中で放任状態におかれていたため、低知による判断力の乏しさに加え、基本的な躾がなされていないことからくる耐性の弱さ、自己中心的行動が目立つもので、少年に対する要保護性は極めて高いものである。

2  少年の非行性についても、中学二年頃から窃盗の非行がみられ、現在までに窃盗の家裁係属合計四回となり、盗んだ金で列車に乗つては遠方へ出かける有様であり、さらに、上述のとおり、少年は、家庭や施設に落着くことができず、やくざや前科のある者と同棲したり、あるいは社会適応能力の欠如からこれらの不良者から餌食にされたりしているもので、少年のぐ犯性も極めて高いものといわざるをえない。

3  以上によれば、少年の家庭にはすでに保護能力は全く期待できず(祖父も昭和五〇年九月死亡)、他の開放施設等の社会内処遇は現段階では困難と考えられ、今後の少年の健全な育成のためには、もはや在宅の保護観察では不十分であり、精神障害者を対象とする医療少年院に送致したうえ、生活に必要なごく基本的知識および躾を体得させ、将来家庭あるいは少なくとも授産施設に落付ける程度の生活習慣を身につけさせることが必要と考えられる。

なお、犯罪者予防更生法四二条一項の通告事件でも、本少年は二〇歳未満の者であるから、同条三項の収容の期間の定めをする必要はないものと解する。

(適用法令)

少年法三条一項三号、二四条一項三号、少年審判規則三七条一項後段、少年院法二条五項

(裁判官 杉本孝子)

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